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TSUKUTOのミッション

TSUKUTOは、筑波大学「結」プロジェクトと東京都立大学宇宙システム研究室の双方が提案する4つのミッションを掲げています。
ここでは、TSUKUTOのミッションについて詳しくご紹介します。

1. CubeSatミッションピギーバックプラットフォームの実証(筑波大学)
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一般にロケットの重量のおよそ9割は燃料と言われており、実際に宇宙に持っていける荷物は非常に限られています。 そのため、大型衛星の打上げ時にはロケットの余剰能力を活用して小型衛星を相乗りさせることが多く、このような方式はピギーバックと呼ばれます。

本ミッションではこれにならい、複数の組織で提案するミッションを1つの衛星に"相乗り"させて実施する形態をミッションピギーバックと呼んでいます。 筑波大学「結」プロジェクトでは、地上との通信や電力供給などの衛星の基本的な機能を担う部分(バス部)を規格化し、衛星ごとのミッションを担う部分(ミッション部)をモジュールとすることで様々なミッションを載せ替え可能な汎用性の高い衛星を作り、ミッションピギーバックを実現させることを一つの目標としています。 TSUKUTOでは、このようなプラットフォームを実用化するにあたっての第一段階として、筑波大学側が開発するバス部に、都立大側が開発するミッションモジュールを搭載して打上げを行います。 CubeSatサイズでのこのような試みは他に例がなく、まずは軌道上でミッションモジュールに十分な電力を供給できることや、バス部とミッションモジュールでデータの受送信ができることを確認する予定です。

宇宙で実施したいミッションを考えている人にとって、一から衛星システム全体を作り上げるのは非常に大変です。ミッションピギーバック方式が実現すれば、技術面でもコスト面でも宇宙開発に対するハードルが下がって、様々な人がより手軽に宇宙でミッションを行う機会を手に入れることができるでしょう。その結果、個々の衛星の価値が高まったり、従来よりチャレンジングなミッションが増えたりすることが期待されます。

今回の実証後には、大学で宇宙開発を行っている団体のネットワークであり、「結」プロジェクトも加盟しているUNISECの内部で衛星バスの提供者とミッション提案者を繋ぐシステムを立ち上げ、広く利用できるような仕組みにしたいと考えています。新たに衛星開発に挑戦する団体にとって、宇宙への足掛かりとなることを期待しています。

ミッション1

2. 430MHz帯でのLoRa変調方式を用いた衛星通信技術の実証(筑波大学)
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人工衛星は、一度打ち上げてしまえば直接状態を確認したり修理したりすることはできません。ですから、地上との通信を確実に行えるようにすることが何より大切です。大学で開発されている衛星のうち、約25%は打上げ後一度も電波を受信できないまま終わっており、信頼性の高い通信手段を確立することでミッション成功率の底上げに寄与できると考えられます。

無線通信で情報を送信する際には、電波に音声や数値などの伝えたい情報を乗せるために変調という操作が必要になります。一般にCubeSatの通信機に採用されているFSKという変調方式は比較的消費電力が大きく、特に発電量の少ない超小型衛星にとっては、ミッション機器に供給できる電力が限られるなど大きな制約条件となります。

TSUKUTOでは、上記の問題を解決するためLoRa変調方式を利用した新たな通信規格を採用します。LoRa変調方式は、近年IoTデバイスを中心に利用が広がっており、低消費電力かつ安定した長距離通信が可能であることが特長です。アマチュア無線帯でのLoRa変調方式による衛星通信は非常に例が少なく、本ミッションを通して様々なデータを収集することで、その有用性を示したいと考えています。具体的には、軌道上の衛星とLoRa変調方式により通信し、送受信の成功回数・成功率を評価する他、衛星通信に適した各種パラメータの決定、ドップラーシフトが通信に与える影響の検証などを行います。

3. 衛星への機能要求が少ないPMDシステムのモジュール化に向けた技術実証(東京都立大学)
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ミッション3
近年スペースデブリの問題が深刻化し、真剣な議論が交わされています。運用が終了したにもかかわらず軌道上に残り続けている衛星も大きな問題の1つで、既に打ち上げられた衛星を廃棄する方法や、今後打ち上げられる衛星がデブリ化しないような工夫が検討されています。 米国では、低軌道上の衛星がミッション終了後に軌道離脱するまでの猶予期間を従来の25年から5年へと大幅に短縮することを決定しており、今後世界的に規制が厳しくなると考えられます。 しかし、CubeSatをはじめとする超小型衛星は、小型であるゆえに推進系を搭載していないことも多く、適切な軌道離脱を実施するにあたっての課題を残しています。

本ミッションでは、そのような背景を踏まえて小型の衛星でも比較的導入しやすい軌道離脱システム(PMDシステム)を提案し、その実現に向けた技術実証を行います。

従来型の軌道離脱では、衛星の進行方向にスラスタを噴射し、速度を落とすことでより低い軌道に遷移するという手法が一般的でしたが、この方法では噴射のタイミングで精密な姿勢制御を行う必要があります。予備の機器を搭載する余裕のない超小型衛星では、故障により運用終了時に十分な機能を果たせないことも多く、精密な姿勢制御を確実に行うことは容易ではありません。

新たに提案する手法は、地心方向に向けてスラスタを噴射することで軌道を変形させ、近地点高度を下げて大気抵抗により徐々に減速するというものであり、従来手法と比較して厳密な姿勢推定・制御が必要ありません。そのため、機能要求が少なく小型の衛星でも十分に採用が可能であると考えられます。

今回の実証では、カメラによる地心方向の検出と独自のアルゴリズムによるスラスタ噴射タイミングの決定を行い、その妥当性を軌道上で取得したデータから確認します。

4. 衛星の健康指標を用いた異常検知アルゴリズムの実証(東京都立大学)
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人工衛星は、地上から状態を監視できるように各部の温度や電流量など、ハウスキーピングデータ(HKデータ)と呼ばれる様々な情報を常に送信しています。大学衛星の多くは、地上で受信したHKデータを基に人が衛星の状態を推定することで運用されてきましたが、運用者の知識や経験に左右される面が大きく、属人化が進むという欠点を抱えていました。加えて、衛星システムが複雑になるとHKデータの量も増え、衛星に起こっている問題を早期に発見しづらくなったり、故障箇所の判別が難しくなったりすることが予想されます。

このような問題を解決するため、本ミッションでは、バス部が提供するHKデータから衛星自身が軌道上で「健康指標」を計算し、システムの健全性を監視することを目指します。 運用初期のデータから正常な衛星のモデルを構築し、HKデータから異常を検出したら地上へデータを送信することで、常に大量のHKデータを送信する必要がなくなります。これにより、運用者の負担や属人性の問題を解決しつつ、即応性の高いより円滑な衛星運用が実現できると期待されます。