ミッション部開発(東京都立大学宇宙システム研究室)
東京都立大学 宇宙システム研究室では,以下の2つのミッションを実施するミッションモジュールの開発を進めている。
- 衛星への機能要求が少ないPMDシステムのモジュール化に向けた技術実証
- 衛星の健康指標を用いた異常検知アルゴリズムの実証
ミッションの概要 #
1. 衛星への機能要求が少ないPMDシステムのモジュール化に向けた技術実証 #
近年、超小型衛星の打ち上げの活発化や衛星の破砕によって、スペースデブリは増加の一途を辿っている。地球周回軌道は有限の資源であるため、このまま対策なしに軌道を使い続けると将来的には軌道資源は枯渇してしまう。そこで、世界的にミッション後の衛星の軌道離脱廃棄(Post-Mission Disposal、PMD)の重要性が高まっている。国際機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)は 2007年、低軌道衛星は運用終了後25年以内に低軌道保護域から離脱すること(通称25年ルール)を規定し、25年ルールの遵守率90%以上にすることを求めたが、現在においても25年ルール順守率は 60%程度にとどまっている。そのような背景から都立大では現在,「衛星姿勢が無制御下であっても自身が有する簡単なセンサによって一定の姿勢範囲内にあることを検知し,推進系作動の位置・タイミングを決定することによって軌道離心率を変更して徐々に近地点高度を下げるためのアルゴリズム」を研究中である。この手法は地球センサや太陽センサなどの単一で単純なセンサのみを使用するので2つ以上のセンサを要する従来手法と比較して衛星への姿勢決定および姿勢制御等のシステム要求を大きく低減することができる。今回は,推進系は搭載せず,推進系以外のシステムの実現性の検証を行う。具体的には,提案するPMDプロセスのうち,軌道と姿勢の情報から,推進系作動すべきタイミングの計算部分をオンボードで行う。これが実証されれば,推進系を搭載したPMDシステムのモジュールとして開発し,宇宙デブリの削減に貢献することができる。
2. 衛星の健康指標を用いた異常検知アルゴリズムの実証 #
非修理系である人工衛星において、システムの異常を事前に検知して故障を未然に防ぐことは極めて重要である。従来の異常検知手法としては、事前に閾値を設定する単純な方法や、過去の運用者の経験に頼った属人性の高いアプローチが主流であった。しかし、そのような手法には、人為的ミスの可能性や運用コストが高いといった問題がある。近年では、それらの問題を解決するために、機械学習を用いて過去のデータから帰納的に異常検知モデルを構築する手法の研究が盛んに行われている。機械学習によるアプローチは、従来手法が持つ属人性や運用コストの問題を解決する一方で、異常原因や故障箇所などの運用者が必要とする情報を特定することが難しいという新たな課題を有している。そこで都立大では、機械学習による異常検知手法に「健康指標」と呼ばれる新たな変数を導入する異常検知アルゴリズムの研究開発を行っている。 本ミッションでは,軌道上でバス部から提供されるHKデータを用いてオンボードで健康指標を計算し、正常なシステムのモデルを構築する。その後、モデルを用いてリアルタイムに衛星システムの異常検知を行う。現在、異常検知性能のさらなる向上を目指して研究開発を進めている。