ITF-1はGPM主衛星相乗り小型衛星として2011年に採択され,2014年2月28日に,H-IIAロケットにより種子島宇宙センターから打ち上げられました.そして同年6月29日に大気圏再突入を確認し,運用を終了しました.
「結」ネットワークの構築
衛星のダウンリンクを中心として、利用した人々の交流ネットワークを構築する.
超小型アンテナの宇宙実証
衛星構体に貼り付ける、展開機構が不要なアンテナを開発し、宇宙での動作実証を行う
新型マイコンの宇宙実証
放射線耐性が高いとされるFRAMマイコンと従来から利用されているマイコンの宇宙での比較対照実験を行う
これらのミッションはITF-2に引き継がれています.
名称 ITF-1
愛称 結
サイズ 1U(110.5_108.0_111.5mm)
質量 約1.24kg
衛星から地上への電波送信
周波数430MHz帯 モールス
地上から衛星への電波送信
周波数430MHz帯、144MHz帯 F2D(DTMF)
軌道 高度400㎞ 軌道傾斜角65度
運用期間 4か月
ITF-1では地球の地磁気を利用した受動磁気制御方式を採用しています.この方式では永久磁石とヒステリシスダンパを利用しています.
磁場中に存在する磁性体には,磁性体内の磁気モーメントと磁場が平行になるような方向に磁気トルクが働きます.本衛星はこの原理を利用し,構体内に設置した永久磁石の磁気モーメントと地磁場を干渉させることで,宇宙空間における衛星構体の姿勢方向を変更します.
衛星構体放出の際に,構体は放出機構より回転運動エネルギーを受けます.この回転運動エネルギーは,姿勢制御に支障をもたらすために散逸させる必要があります.しかし,ITF-1の軌道上では大気が希薄であるため,エネルギーの散逸速度が小さく,衛星の構体姿勢が安定するために長い時間を要します.そこで,ヒステリシスダンパによる磁気摩擦効果を利用し,衛星構体の回転運動エネルギーを散逸させ,衛星姿勢の安定化時間を短縮させます.ITF-1ではヒステリシスダンパは永久磁石の磁気モーメントの方向と直角に二本設置しました.
ヒステリシスダンパの概要
主にITF-1の構造体の設計や組み立てを担当しました.
ITF-1の熱解析を担当しました.衛星運用期間中,衛星は常に以下の表の許容温度範囲内に各機器の温度が収まる設計になるか,高温最悪条件および低温最悪条件で節点法を用いて解析を行いました.
機器名
許容温度範囲
太陽電池パネル
-100.0℃ ~ 100.0℃
バッテリ
0.0℃ ~ 40.0℃
無線機
-10.0℃ ~ 60.0℃
メインボード
-20.0℃ ~ 60.0℃
電源ボード
-20.0℃ ~ 60.0℃
解析の結果,高温最悪条件,低温最悪条件で以下のような結果になりました.よって,運用期間中に衛星の各搭載機器が許容温度範囲内に収まると予想されます.
高温最悪条件での解析結果
低温最悪条件での解析結果
電装系では日照時に太陽電池からの電力を衛星機器に供給し,バッテリを充電する.日陰時には日照時に充電したバッテリから衛星機器に電力を供給します.
ITF-1では電源系は電力発生用の太陽電池,バッテリ,電源安定化のためのレギュレータ部,充放電等を管理する電源系CPUによって構成されています.電源系バスは非安定化方式を採用し,太陽電池又はバッテリからレギュレータ部において各電圧に安定化させます.
衛星表面6 面のうち4 面にのみ太陽電池パネルを設置し,パネルの展開等もないため電力を十分に供給するために太陽電池パネルとして高効率の宇宙用トリプルジャンクションGaAsを使用しています.
ITF-1太陽電池諸元
ITF-1ではバッテリ(充電電池)にLi-ion二次電池を採用しています.日照時に太陽電池の発電によってバッテリを充電し,太陽光が当たらない日陰の期間にバッテリのみで衛星に電力を供給します.
ITF-1には,この充電池を1本搭載しました.充電池はポリアセタール樹脂製の電池ボックスに収納され保温されます. Li-ion電池は充電池の温度が40 ℃を超えないよう熱設計をしたうえで,蝕時には電池ボックスに取り付けられたヒータを用いて0 ℃を下回らないよう制御を行います.
電装系CPU にはPIC16F877A を採用しています.ITF-1が放出機構から分離された後,キルスイッチが離れてから200秒待機します.電源系CPU はメインCPU と相互に監視しており,メインCPU が異常動作した際にはリセットをかけて復帰させます.メインCPU でアップセットなどの異常が発生し一定時間メインCPU からデータの送信がない,またはメインCPU から送られてくるデータが正常でないと判断した場合に電源CPU はメインCPU の電源に挿入されているFET を一旦OFF にしてリセットをかけます.また,メインCPU で消費される電流の監視も行っており,ラッチアップを起こしてメインCPU への電流が増加した場合にもリセットをかけます.地上からの信号により,電波の送信停止やそれに応じた動作を行います.モノポールアンテナや超小型アンテナよって受信した地上からの信号を受信し,モールス信号をダウンリンクする.アンテナ展開用テグス切断のために,抵抗に電流を流します.
各機器の消費電力は以下の通りです.
各機器の消費電力
搭載機器
消費電力
無線機(送信時)
0.78W
無線機(受信時)
0.24W
無線機(受信待機時)
0.07W
電源系CPU(PIC16F877A)
0.1W
メインCPU(ATmega128)
0.14W
通信系CPU(PIC16F877A)【通常時】
0.035W
通信系CPU(PIC16F877A)【スリープ時】
0.000025W
通信系CPU(ATmega128)【通常時】
0.15W
通信系CPU(ATmega128)【スリープ時】
0W
通信系CPU(MSP430FR5739)
0.003W
バッテリヒータ
0.8W
通信系のシステムブロック図および通信系が担当する通信マイコンを以下の通りです.
通信系マイコン
システムブロック図内の表記
使用したマイコン
Main CPU
ATmega128
PIC
PIC16F877A
AVR
ATmega128
FRAM
MSP430FR5739
無線機はALINCO社製のハンディ無線機DJ-C7を3台搭載し,430 MHz帯用に2台,144 MHz帯用に1台使用します.送受信用のアンテナは430 MHzモノポールアンテナ,430 MHz超小型アンテナ,144 MHz超小型アンテナの3組を搭載します.