「結」プロジェクトでは,平成27年度筑波大学社会貢献プロジェクトを採択し,大学構内にてつくば市内の茗渓学園の中高生11名を対象に高大連携講座を実施しました.このときは衛星開発や宇宙工学に則して「衛星受信」,「太陽電池」,「振動」を題目に設定し,中高生向けの内容になるよう吟味して内容を準備し,資料を作成しました.
人工衛星のミッションを行う上での地上との通信の重要性と有用性について説明を行いました.また,筑波大学で開発中の超小型人工衛星ITF-2をはじめ,多くの小型衛星がアマチュア無線バンドでの通信を行っていることから,とりわけ今回はモールス符号について注目してアマチュア無線の魅力についても触れるきっかけの提供を目指して実施しました.
当日の講座中に上空を通過した,CAMSATが開発したXIANG-1 (HOPE-1)と日大宮崎研が開発したSPROUTのダウンリンクを筑波大学地上局設備で受信しました.
また,衛星の通過までの待機時間を利用して,電波(電磁波)の基本的な性質やモールス符号など基本的な背景知識や,衛星のドップラー効果の大きさの理論値を計算によって求める課題に取り組んでもらいました.物理学的な知識が必要なときには図などを用いて中高生の理解が少しでも進むように配慮し,細かい計算はExcelであらかじめ用意した計算シートを用いて実施するなどの工夫をしています.
太陽電池がどのように発電し,どのような性質を持ち,その発電量は何によって決まるのかについて基本的な説明を行いました.特に,太陽電池の評価をするために有用な手法として広く知られているIV特性について理解を深めてもらうため,説明ののちに,太陽電池の電流と電圧を測定してデータをプロットしてもらう実験を実施しました.
IV特性測定の実験はいくつかのグループに分かれて実施しましたが,各グループそれぞれに異なる特性を持つ太陽電池を準備することで,発電電圧や発電量などが太陽電池の何に依存しているかを考えさせる機会を提供できるよう工夫をしています.また決められた実験条件でデータが取れたのちには,各班で話し合って,太陽電池を傾ける,距離を離す,光源の光量を落とすなどで実験のコンフィグレーションを変更してもらい,複数回測定を行ってもらいました.
衛星を打ち上げる際に,ロケットの打ち上げによる振動と中に搭載された衛星の固有振動数が近いと共振してしまい,衛星やロケットに甚大な被害を及ぼしてしまう可能性があることから,これを防ぐため衛星の固有振動数解析と振動試験は非常に重要です.当日は,市販のスピーカーを改造した簡易な振動試験装置を用いて,衛星の構造解析と振動試験の重要性を理解してもらうことを目指しました.
初めに,固有周波数や共振などの背景知識の解説と振動試験の説明を行い,続いてグループごとに分かれてアルミ棒の固有振動数の理論値の計算に取り組んでもらいました.式の詳細は中高生のレベルから逸脱しているので省略して,Excelで計算をしてもらっています.
最後に振動試験装置を用いて実際にアルミ棒を加振し,計算によって得られた振動数付近で共振するか確かめました.
参加した中高生の多くが満足したとコメントしてくださり,今後もこのような活動を継続していこうと考えています.何より,ITF-2が打ち上げられて運用が開始されれば,衛星実機を用いた講座が可能になるため,この期間を生かして衛星のミッション達成とともに社会貢献事業にも取り組むことで,衛星の新たな有効活用手段を想像できると考えています.